【書評】奇跡のリンゴ

書評
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奇跡のリンゴ。

前回の記事でも少し紹介させてもらいましたが、今回はバッチリ書評を書きます。

「絶対不可能」と言われた無農薬でのリンゴ栽培。それを成し遂げた木村秋則さんのノンフィクション物語です。面白すぎて、一気に読めました。それでいて最後には人間とは何なのかも考えさせられる深すぎる本でした。

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総合評価

★★★★★(とても面白い)

あらすじ

この本には目次がありません。現在に至るまでの木村さんの物語を一気に書いています。なぜ目次がないのか。目次を書かないことにより、物語が流れる時間に伸縮が生まれないように考えたのではないでしょうか。人の一生に流れる時間は等しい。その時間の流れを表しているように思えます。要約だけを抑えるのではなく、木村さんの物語をじっくり味わってほしい。そんなことを考えました。

今回は私が勝手に内容を分けて書きますが、本の内容は全て伝わらないと思います。要約を書いているものの、この本は要約していい本なのではないかもしれません。この点についてはぜひ本を読んで感じていただければと思います。

りんごの歴史

りんご栽培で農薬を使うことは、現代のリンゴ栽培を知る者にとって常識以前の問題です。研究によると、現代のリンゴは農薬を使わなければ収穫はほぼゼロになります。

農薬のない時代もリンゴはありました。しかし、昔のリンゴは小ぶりで酸っぱく今の人たちからしたら食べれたものではありません。それを大きく甘い今のリンゴにしたのは、農薬が生まれたことにより品種改良できたからです。

現代のリンゴと、昔のリンゴはまったくの別物です。農薬栽培と引き換えに手に入れた大きく甘いリンゴ。リンゴという果物は、農薬に深く依存した、現代農業の象徴的存在なのです。

木村さんの生い立ち(農業を始めるまで)

木村さんは1949年に青森の岩木町(現在の弘前市)に生まれました。小さな頃から機械いじりが好きで無線機やオートバイを分解したり作ったり、夢中になったものをとことん研究する子どもでした。そんな木村さんは就職で一旦関東に出ますが、その後家の都合で青森に戻されます。そして、偶然なのか必然なのか農業の道に進むのでした。

リンゴの無農薬栽培を始めるまで

木村さんが農業をしていた岩木山一帯には、リンゴの他にもうひとつの名産品があります。それはトウモロコシ。木村さんはトラクターをいじるのが好きでした。アメリカのようにトラクターでダイナミックにトウモロコシを作りたい。妻が農薬に弱い体質だったこともあり、最初はそう考えていました。

しかし、青森の気候が木村さんにリンゴの無農薬栽培を始めさせてしまいます。青森は雪深い場所のため、冬はやることがほとんどありません。そこで、勉強熱心な木村さんは本屋で偶然一冊の本と出会うのでした。

リンゴの無農薬栽培を始めたきっかけの本とは

その本は福岡正信さんが書いた「自然農法」という本でした。人間の知恵や営みは無駄であり、むしろ有害なものですらある。自然のシステムを100%生かした農業をするのが彼の提唱する自然農法でした。

この本を読んで木村さんは、リンゴを栽培するために1年に十数回も撒く農薬は本当に必要なのかと疑問を持ち、農薬がなくてもリンゴは育てられるのではないかと考えるようになりました。

無農薬への挑戦

夢中になると、とことんのめり込む木村さん。最初はリンゴ畑の一部で農薬の量を減らすことから始めました。そうすると、1年で1回でも農薬を撒けば意外と収穫ができることが分かります。そこから、無農薬でもすぐいけるだろうと思って無農薬を始めました。

過酷を極める無農薬栽培

結果は惨敗。農薬を1回でも散布した畑とは天国と地獄ほどの差がありました。これは一筋縄ではいかないと考えた木村さんは大きな賭けにでます。それは実験の数を増やすためにすべての畑で農薬の使用を辞めたのです。リンゴが獲れないと収入はほとんどありません。地獄への階段を駆け足で登るようなことを始めてしまったのです。

元々リンゴは明治時代に日本各地で栽培が始まりましたが、どの地域も害虫や病気のせいでリンゴの木が回復不能なまでに痛めつけられて、ほとんどの県がリンゴ栽培を放棄した過去があります。青森のリンゴ栽培も絶体絶命のところまでいきましたが、農薬の出現により安定したリンゴの栽培がなんとかできるようになりました。その過去がありながら、木村さんは挑戦したのです。

案の条、木村さんの挑戦も過酷を極めます。一家は収入がなくなり、生活に窮するのでした。そして木村さんは心身ともに疲れ果て、やがて自殺を考えて一人夜の山奥に消えていったのでした。

死の間際で会った自然の真理

山の中で、木村さんは死ぬのに丁度いい木をみつけます。ここで死のう。木村さんは用意していたロープを枝に投げました。しかし、ロープは指から変な抜け方をしてあらぬ方向に飛んでいきます。こんなところでもヘマをしてしまって…と思いながら、そのロープを拾いに行った木村さんは山奥にある一本のりんごの木を発見したのです。

もちろん誰も農薬なんてかけていません。なぜだ。そのとき木村さんは探し求めていた答えに辿り着いたのです。実はこの木はドングリの木だったのですが、木村さんにとっては同じことでした。

木村さんが気づいたもの

答えは土にありました。畑とは比べ物にならないくらい柔らかい土。養分がたっぷり詰まった土だったのです。自然の中に孤立して生きている命はない。雑草や微生物も含めて、すべてが複雑に組み合わされたひとつの「自然」というシステムを使って生命力の強いリンゴの木を育てる。その土俵となるのが土なのです。虫や病気が大発生したのはリンゴの木が弱っていたからなのです。

自然の中に無用なものなどない。自然は細切れになどできない。自然の手伝いをして、その恵みを分けてもらう。それが農業の本当の姿。木村さんは気づきました。それが奇跡のリンゴを育てる鍵だったのです。

現在

ついに木村さんは完全無農薬栽培のリンゴを育て上げました。人は自然の手伝いをするだけ。自然のダイナミズムさを感じながら、上手くそのシステムが回る手助けをするだけ。

農薬は絶対に必要だという常識を覆し、今まで誰も出来なかったことを成し遂げた木村さん。今は全国各地を飛び回り、その秘訣を広めています。木村さんが創り上げた地球の大自然に沿った農業の形。それがメジャーになる日も近いのかもしれません。

まとめ

今回は奇跡のリンゴを紹介しました。東北は自然豊かな土地であります。その土地で起こった農業の本質への挑戦。地球という自然のシステムの中での人の役割とは。今まで当たり前だと思って考えてこなかったに深い疑問が投げかけられた気がしました。

あらすじを書いたもののこの本は通して読むことによって得られるものは何倍にもなる本だと思いますので、ぜひ読んでもらえれば嬉しいです。

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